親友の娘

2053/10/10

 天も地もないような見渡す限りの青空だった。地球の裏側にある、世界で一番平らな土地の風景によく似ている。
 けれどここはウユニではない。なぜなら死んだはずの人間がいるからだ。
「ヒロ」
 コウジはまるで宙に浮いているかのように見える白い椅子に座ってアコースティックギターを爪弾いていた。ぽろりぽろりと奏でられる音は、メロディというより効果音に近い。
 俺は数歩歩いてコウジの目の前に立った。見下ろす頭のてっぺんに揺れる双葉すら懐かしく、最後に会いたいと思ったのがいつだったかすら思い出せないのになぜだか無性に泣きたいような気持ちになった。
 コウジは右手を弦から離すと俺を見上げた。いっときも忘れるはずがない、整った顔立ちをふにゃりと崩すコウジの笑顔。
「来ちゃったんだ」
「コウジよりはずっと遅いさ」
「……そうだね」
 コウジはギターを椅子に立てかけるように置いて立ち上がる。
 この距離も懐かしい。どのくらい首を上向ければコウジの顔をうまく見れるのか、身体が覚えている。
「ヒロ」
 垂れ下がったままだった俺の左手をコウジの右手が掬い上げてゆるく握った。乾いた手のひらは温かい。まるでふたりとも生きていたときのような感触だ。
 死んだはずなのに。なにもかも現実味がなく、でも夢なら夢で構わない。こんなふうに会って話ができるならどこだってなんだって構いやしない。
「いとちゃんは?」
「いるよ。ふたりで話してきたら、って。……ヒロ、紡のこと、ありがとう」
「……俺はただ、やりたいことをやっただけさ」
 俺が紡ちゃんとああして接した日々が本当に彼女のためになったのかはわからない。遺された小さな娘に対して、コウジやいとちゃんが一番にそれを望むかといえばそんな確信はまるでなかった。俺が勝手なことをしたとなじられてもその通りでしかない。
「ううん」
 コウジは首をゆるりと横に振った。
「紡、楽しそうだった」
 蜂蜜色の瞳は優しい。数十年ぶりでも、よく見慣れた色をしている。
「それと、ヒロもね」
 柔らかな風が髪をそっと撫でるように通り過ぎた。この場所はひどく凪いで穏やかだ、まるであの煌めいていた日々のように。
「大好きなひとたちが楽しく生きていてくれるなら、それ以上のことはないよ」
 それを言うなら早々に逝ってしまったお前はどうなんだ、コウジ。
 もっと長く生きていてくれたらと思ったことは数知れない。それすらももう、全部過ぎたことだ。
「なあ、コウジ。時間ある?」
「いくらでも」
「よかった」
 掴まれたままだった手のひらを握り返した。コウジは少しも驚きもせずに俺の言葉を待っている。
 コウジが『ここ』から見ていたのだとしても、知っているとしても、それでも。
「俺、コウジに話したいことがあるんだ。たくさん……すごくたくさん、ね」

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