カジュアルBL時空でひたすらにユウを可愛がるヒロユウコウ、挿入はない
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少しだけ、ほんとうにほんの少しだけ、ただ寂しかっただけなのだ。
暮らし始めて間もない寮の一人部屋はまだ知らない場所のにおいがする。明かりを落としてベッドに潜っても眠気は一向に訪れず、ユウは寝返りの回数を数えるのをやめて起き上がった。もう日付は変わっているのにうまく寝つけなくて、無性に誰かに会いたかった。この建物の中で真っ先に思い浮かんだそのひとは、こんな時間にユウが行ってもきっと拒まない。
枕を抱え、そっとドアを開けた。目的の部屋は突き当たりにある。
他のひとに見つからないように控えめなノックを鳴らすと、どうぞ、と声が返ってきた。招かれるままドアを開いて顔を出す。
コウジは椅子に座ったまま来客へ振り返った。
「ユウ」
「……おう」
「どうしたの、こんな時間に。……眠れない?」
コウジの目がユウの抱えている枕へ向けられる。悪いことをしているわけではないのにストレートに言い当てられるとばつが悪くて、ユウは枕をぎゅっと握りしめた。
「べ、つにそんなんじゃ」
滑り込むように入室してドアを閉じる。ここは寮で唯一の二人部屋だが、もうひとりの部屋のあるじの姿はなかった。この部屋はいつもそんな感じだ。ふたり揃っているほうが珍しい。
「なにしてんの?」
話題を逸らすつもりで、それから単純に気になって、ユウはコウジの後ろから机を覗き込んだ。散らばっている紙はなかば予想通り大半が楽譜で、そのほかに彼らの曲のタイトルが並んだ紙もあった。
「次のライブでちょっとアレンジを変えてみようかと思って考えてたんだ」
「そっちは?」
「これはセットリスト」
「ふーん……」
コウジが新しく編もうとしているアレンジがどんな音楽なのか、楽譜だけではわからない。それでも、聴いたことのない音楽が大きなステージに流れるところを想像するとわくわくした。その時ユウは客席で、いとと一緒にその曲を聴くだろう。
「まだ寝ねえの?」
できるだけさりげなく訊いたつもりなのに、コウジは楽しそうにくすりと笑った。結っていない暗い色の髪からシャンプーの香りがする。
「そろそろ寝ようかな。ユウも一緒に寝てくれる?」
コウジは楽譜を適当にまとめて机の端に寄せると、返事を待たずに立ち上がった。座っていた時はユウのすぐそばにあった顔が急に遠くなる。見上げた首が痛い。
「仕方ねーなっ。ヒロがいなくて寂しいんだろ」
「そうそう、ヒロがいなくて寂しいんだよね」
コウジは歌うように言いながら明かりを消し、ユウの背を押した。数歩でコウジのベッドに辿り着く。先にコウジがベッドに入り、掛け布団を捲ってみせた。
「ほら」
「……姉ちゃんに言うなよ」
「言わないよ」
コウジが壁際に寄ったことでできたスペースに、ユウは持ってきた枕を押し込む。それからベッドに乗り上げて横になると、頭の下に持ってきたものとは違う枕があった。
「硬い」
「まあまあ」
腕枕ってなんだよ、とつっこむ前にコウジがその手で頭のうしろを撫でたので、ユウはなんとなく言葉を飲み込んでしまう。
目を閉じるとコウジのにおいがした。ユウの一人部屋よりも落ち着くにおいだった。
「おやすみ、ユウ」
「……おやすみ」
身体を少し丸くすると鼻先にコウジのパジャマのボタンが当たる。二人分の体温を包んだ布団はすぐに暖かくなって、ユウはうとうとと意識を漂わせた。
そのまま眠りに落ちようとしていたユウを引き止めたのはコウジだった。長い腕がユウをぎゅうと抱き寄せる。
「わっ」
ぴったりと密着して、呼吸にあわせて身体が上下するのが伝わってくる。こうもがっちり抱き込まれてしまっては顔を見上げることもできない。
「コウジ、」
小さく呼びかけても反応はなかった。コウジの呼吸がユウの前髪を揺らしてくすぐったい。
「姉ちゃんと間違えてるのか……?」
コウジが眠っているのなら、これはユウのひとりごとだ。
恋人同士がどんなふうに触れ合うかくらいユウだって知っている。コウジといとがそういう触れ合い方をしているかどうかまではユウに知る由はないが、していたとしても驚かない。
今ユウの背を押さえつけている大きな手が、姉の肌に触れていたとしても。
「間違えてないよ」
返事は一拍遅れて、頭の上から返ってきた。びくりと震えたユウを宥めるように、コウジの指がすいとユウの背骨をなぞるように撫で上げる。
「ひゃっ……お、起きてる……?」
「うん」
短く肯定するコウジの声はいつもより低く掠れている。暗い部屋に似合う声だった。
コウジはユウのTシャツの裾から手を滑り込ませ、腰にぺたりと手のひらで触れた。中学に上がったばかりのユウの身体はまだ華奢で、片手でも簡単に抱き込める。腰の輪郭を確かめるように手を動かせば、コウジよりも高い体温がついてきた。
「ちょっ……コウジ、やめろって、くすぐったい……!」
ユウが身体を捩ってもコウジはやめなかった。そもそも体格の差があるのだから、こんな体勢をとられては簡単には抜け出せない。
悪戯にしては揶揄っているような気配もなく、コウジの手はただただユウの肌を辿っている。
「可愛いなぁ」
「はぁ? おいっ、コウジ、もう……」
「楽しそうだな」
「うわっ!?」
背後から急に声をかけられて、ユウはまた身体を跳ねさせた。コウジに抱きしめられていなければベッドから転がり落ちていたかもしれない。
「俺も混ぜてよ」
首を精一杯ねじって振り返る。暗さに慣れた目は見上げた先の顔をすぐに認識できた。黒縁の伊達眼鏡、亜麻色の大きな瞳。
「は……ヒ、ヒロ……? なんで……」
「ひどいなぁ、ここ俺の部屋だよ」
「お帰り。忘れ物見つかった?」
「ああ。さすがにこんなに遅くなるつもりはなかったんだけど……」
なんでもなさそうに言いながら、ヒロは眼鏡を外して机に置き、ジャケットを脱いで自分のベッドに放った。
「おかげで面白いことになってるな」
ばさりと無遠慮に掛け布団が捲られて、コウジが撫で回していた背中から部屋の空気が入り込む。ふたり分の体温で温まったベッドの中に比べて部屋の温度は低く、身体をぶるっと震わせている隙に背後でヒロが横になった。
「近いっ」
「だって、こうしないと落ちちゃうし」
「ユウがもっとこっちに来たらいいよ」
コウジが壁際に寄ったかと思うと、ユウに回したままの腕に力を込めて一気に抱き寄せる。
「わあっ」
「サンキュ」
ユウがずれて空いたスペースにヒロがにじり寄った。ユウは相変わらずコウジに抱えられたままで、そのすぐ背後にヒロがいる。正面と後ろから挟まれるような姿勢になって、ユウは今度こそ寝返りすらうてなくなった。
「なんなんだよ、もうっ」
「んー?」
コウジはユウの髪に鼻を擦り寄せた。くぐもった声。背中の指が肩甲骨をなぞる。
「ユウが可愛いんだよ。な?」
「そうそう」
「なにが……ひゃあっ」
背後から腕が伸びてきて、ヒロがユウの腹に触れた。外から戻ってきたばかりのヒロの手は夜の冷たさで、ユウは思わず身体を丸めようとして失敗した。目の前にコウジがいるせいで、コウジの胸に頭をぶつけて終わる。
「わ、ユウ、肌すべすべ。あったかい」
幼い身体はヒロのように鍛えられているでもなく、しっとりと柔らかい。けれど女性の身体とも違って、小さくはあっても男の子どもなのだった。
「んん、もう、ほんとに……くすぐったい、ってぇ」
ヒロの指が臍のふちをくすぐるようになぞった。背中にあったコウジの手は少しずれて、脇腹から脇のほうへと指の背で撫で上げる。
あちこちにゆるゆると触れられて、ユウの身体はびくびくと震える。かと思えば刺激の狭間で弛緩して、なにかを逃すかのように、は、と熱い息が漏れた。
「なんで、こんな、……っは、あ、」
「気持ちよくなってきた?」
「え……?」
コウジの言ったことがユウにはよくわからなかった。なにを言われたのだろう。自分は今なにをされているのだろう?
ユウの手はいつの間にか、目の前のコウジのパジャマを掴んでいた。それを宥めるようにコウジの手がユウの指をゆっくりと解かせる。ユウは代わりにコウジの手を握りしめた。
頭がぼうっとして回らない。ふたりの手はユウの身体を好き勝手に這い回り続けている。
「ひぁ、なに、ヒロ……っ」
ヒロがユウのショートパンツに指をかけ、その中に手を伸ばした。つう、と太ももの内側を指先だけで辿る。膝が震えてコウジを蹴飛ばしかけると、コウジは繋いだユウの手をぺろりと舐めた。
「ああ……そうか」
「え……?」
コウジがなにか納得したように呟いた。声のしたほうを見上げれば、彼は見たことのないような色の目でユウを見ていた。
ヒロはユウの膝をくるりと撫でながら、片肘をついて上半身を起こしユウの顔を覗き込む。うっすらと涙目になっているユウの紫色の瞳が、夜の部屋の中でたったひとつの明かりのようにきらめいた。
「ユウ、射精したことある?」
「なっ」
ヒロの口調はいたって真面目だ。だからこそユウはどう返したらいいのかわからなかった。からかっているのならうるさいと一蹴したのに。ただでさえさっきから頭が働いていないのに。まるで労わるように言われては、なにが正解なのかもうわからない。
「大丈夫、出なくてもイイから」
言葉を詰まらせたユウを見て、コウジがそう囁いた。悪い遊びを教えるようなその表情に抗えるほど、ユウの感覚と好奇心は無能ではなかった。
ヒロの手が膝からまた太ももをなぞり上げ、ユウの股間に下着越しに触れる。
「ひっ、うぅ」
イヤイヤと額を擦りつけてくるユウの後頭部をコウジの手があやすように撫でる。晒された細い首筋にヒロが唇で触れた。
「ひとに触られるのは初めて?」
「ふぁ、ああ……っう、んっ」
「ふふ、初めてもらっちゃった」
ヒロはユウの下着の中に指をしのばせながらくすくすと囀るように笑った。吐息がうなじをくすぐって、ユウは開きっぱなしの口から熱を吐く。はーっ、はーっと大きく呼吸を繰り返しても酸素は足りず、鼓動はうるさくなるばかり。
「やだ、も……ゆび、へん……っ」
「変じゃない、怖くないよユウ」
コウジはユウに掴まれた手をいちど解き、指を絡めて繋ぎ直した。体格差がそのまま現れた手、指先を伸ばしてユウの手の甲を擦る。ユウはそれにもぴくりと反応し、指の間に力を込めた。
下着の中ではヒロの手のひらがユウのものをすっぽりと包んで、追い立てるように擦り上げている。声をあげてぴくぴくと震えるユウを面白がるように、先端の穴に触れた親指にぐっと力をかけた。
「あ、あっ、んぁ、なに……これ、や、あ……っ!」
「イっていいよ」
ライブで何万人もの女の子に甘いせりふを言ってみせるのと同じ声が、ユウの耳元でこんなことを言う。
ユウの目尻に溜まった涙をコウジが吸った。全身に降ってくる刺激のすべてがユウを知らない場所へと連れてゆく。
「んん、んぅ……あ、だめ、あああ……っ!」
ひときわ大きな声をあげ、背中を丸めてユウは出さずに達した。ひとりでは得たことのない快感が大きな波のようにユウに押し寄せて、引いたかと思ったら揺り戻すようにまた訪れる。
「は、はっ……はぁ……っあ、」
仰向けにくたりと脱力する。霞む視界に見えたコウジとヒロの顔は満足げに見えたが、一度瞼を下ろしてしまうと今度こそもう、目を開く力すら残っていなかった。頭や頬を撫でてくる手がどちらのものかもわからない。
両の耳のすぐそばで、コウジとヒロがユウの名前を呼んだ。なんだよ。目を閉じたまま心の中で返事をする。
「おやすみ」
麻酔のように吹き込まれ、ユウの意識はそこでふつりと途切れた。
枕は自分の部屋に置いてきた。
目的の部屋は突き当たりにある。そっとノックをすると、どうぞ、とふたつの声がぴったり重なってユウを歓迎した。
ドアを開ければ、部屋のふたりのあるじが美しく微笑んでユウを見る。
「えっと……眠れなくて……」
それだけのことを言うのに、心臓がばくばくと高鳴っている。なにかとんでもないことをしているような気がするのに、引き返すという選択肢は浮かばなかった。
ヒロが立ち上がって一歩ユウに近づいた。コウジはベッドに腰掛けたまま、小さく手招きをする。ギターを弾いて、姉に触れて、ユウに悪戯をする手。
「おいで」
背後でパタンとドアの閉まる音。こくりと喉が鳴った。
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