一行目は診断メーカーから
—
「こんな関係はもう終わりにしないか?」と、冷たい声が言った。
睦言には程遠い言葉に、ベルナルドはシャツを拾い上げながら振り返る。赤毛のライオンは裸でベッドに倒れ込んだまま、天井のほうを見上げていた。
「なんだ、快くなかったのか。さっきまであんなに喘いでいたのに」
「それを相手におっ勃てていたのは誰だ? こんな野郎の声なんて聞いても楽しくねえだろ」
「確かにお前の声自体に興奮はしないが、お前が俺に脚を開いていると思うと堪らない」
「悪趣味め」
ルキーノがあてつけるように舌打ちした。乾いた音が部屋に響く。
ベルナルドはシャツの袖に腕を通してから、ソファにかけてあったガウンをルキーノに投げつけた。彼が裸でいようが本質的にはどうでもいいが、夜は冷え込む季節だ。万が一風邪でも引かれたら組織として困る。
「それで?」
のそりと上半身を起こしたルキーノの身体はどう見ても鍛え上げられたジョックのもので、ついさっきまで男に抱かれていたとは思えない。緩慢にガウンを羽織る動作すら様になって、そのことがベルナルドの優越感を刺激した。
ベルナルドはゲイではないし、ルキーノの身体に欲情しているわけでもない。ただこの状況には大いにそそられた。脳が悦んでいるのだ。
「もう俺に犯されるのは嫌だって?」
揶揄するように言うと、ルキーノは胡乱げな目を寄越した。
「こんなこと続けたって、なんの意味もないだろう」
「まるでこの世に意味のあることが存在するとでも言いたげだな」
「あるさ、ある……あるんだよ、ベルナルド」
その時のルキーノの頭の中に誰がいるのかなんて、わざわざ訊くまでもない。それはベルナルドの未だ得ていないもので、ルキーノの声がどれほど痛切だろうが、ベルナルドにとっては想像の範疇を出ない感情だった。
「続ける意味がないのなら、止める意味もないんじゃないか?」
シャツのボタンも留めぬまま、ベッドに乗り上げてルキーノの分厚い唇にキスをする。これ以上問答をするのは面倒だった。
セックスをしようがしまいが、ベルナルドもルキーノも変わらない。意味もない。ただ彼の言葉を簡単に承諾するのは癪だったし、あっさり手放すのは惜しいと考える程度には、ベルナルドはこの時間が好きだった。
ルキーノは一瞬眉間に皺を寄せたが、ベルナルドを突き飛ばすようなことはしない。それは十分すぎるほどの答えで、ベルナルドの脳がまた悦んだ。
※コメントは最大500文字、5回まで送信できます