深夜の電話
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一人になると、大抵跡部のことを考えてしまう。
一緒に居る時は厭でも思考の中心に立つのだから一人の時くらい振り回されず、自由に過ごしたいと思うのに、彼がここに居ようが居なかろうが結局は捕われてしまっている自分に気付く。こんなことならずっと一緒に過ごしている方がまだ、諦めがつきそうなくらいに。
跡部のことを考えると、跡部とやり取りをする自分のことを考える。そうして自己嫌悪に陥ってゆく。
彼の鋭すぎる思考の回転に比べたら、自分の反応は滑稽にも程があるというものだ。間抜けとか道化とか、そういう表現がまるでぴったりで、ぴったりすぎて哀しくなってくる。自分自身の頭のよさ――賢さ、と云う意味で――は並大抵ではないと、自覚しているから尚更に。
多分、彼があらゆるケースにおいて一般とはかけ離れていて、軽々と想像を越えてゆくことを認めきれていないのだ。
彼と自分の間に明確な壁があると、断定するのを拒否し続けている。
真夜中、そんなことを淡々と考えていたら携帯電話が鳴った。表示された名前に自然、身構える。
「もしもし」
『俺だ。明日の朝練、中止になったって誰かから連絡行ったか?』
「は? ―――や、かなり初耳やねんけど」
『今日ミーティングで連絡した時、お前居なかっただろ』
「ああ、うん。そうかも」
『どっかから情報回って来るかと思ったんだがな。電話して正解だったぜ』
「うん、おおきに。明日朝練ないんやな?」
『午後練はあるぞ』
「解っとるよ。有難うな」
『全くだ』
本当に、全くもって、そうなのだ。こんな時間に。―――わざわざ、何故。
抱いた疑念は、しかし口には出さなかった。聞き手に徹すると彼は怒るのだが、そうでない限り滅多なことは云わない方が善いと、これは転校早々学習したことだ。
『じゃあ、確かに伝えたからな。朝来るなよ』
「わざわざおおきに。―――お休み」
これは儀礼的な挨拶だ。このまま通話は切られると思ったが、間があった。そして
『好い夢視ろよ』
切れた。
携帯相手に暫く呆然とする。またやられた。無意識に、顔が緩む。
折角頂戴した有難いお言葉だが、今夜はとても眠れそうにない
「MID-NITE 君の声が聴きたくて 優しさや恋の謎と 闘って」
quotation by “MID-NITE WARRIORS”
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