冷たい手

勇気を出して跡部の手を握る忍足

 からかいのつもりでその細い手首を掴んだら、冷たいと怒られた。
 睨むその眼が何となく自分を責めているような気がして俺は負けじと掴む力を強めた。
 眼は一層、不快を顕わにする。

「痛ぇ」
「―――あ、すまん」

 痛い、という反抗だったので、力を緩めた。
 でも相手の意図は離れることだったらしく、また睨む。
 綺麗。

「何で繋いでんだ」

 帰り道、街灯、アスファルト、沈黙、黒い空。
 この要素では繋いでも問題ないと考えたのだ。

「繋ぎたかったから」
「俺は繋ぎたくない」
「何で?」

 その後の跡部は、明らかに狼狽した。

「何で?」
「―――冷たいから」

 その後の俺は、明らかに面喰った。

「は?」
「だから、冷てぇんだよ、テメエの手は!」
「そんだけ?」

 跡部が困るのが面白くて仕方がない。
 ポーカーフェイスに見えて実は結構顔に出るタイプなのは、知っている。

「―――とにかく、離せ」
「そないに冷たいかなー」
「冷てぇんだよ」

 ご要望通り、離してやった。
 手首が解放されたことでそちらに気をとられている跡部の肩に腕を回し、向こう側から下顎を掴んだ。
 一瞬、こっちが吃驚するほどに反応して、それから

 また、睨む。

「―――っおい!」
「なに?」
「離せって云っただろ!」
「跡部はあったかいなあ」
「知るか!」

 そのままその手で跡部の顔を引き寄せて、耳元で笑ってやった。

「過敏症」

 振り払おうとする跡部の手を、俺は折れるくらいに握り締めた。

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