A.M.

猟奇注意・死人が出ます。だめ人間パラレル(?)

after murder / ante meridiem

―――ああ、せや。
最初はいつもみたいに俺ん部屋でアソンデて、―――

あ、これはまだアレとちゃうねんで?
ワイン注いでチーズ並べてトランプとかチェスとかなんも考えんでやるんよ。
なんも考えてへんのに考えとるフリすんねん。
うーん、惜しいなぁとか、ほら見ろとか、全部偶然で起きたチャンスやのに自分がゼロから考えとったみたいなポーズでおんねん。

莫迦だって解ってることずっと続けて見境失くしてかんとつらいやんな。
生きててつらいこと無い方が可笑しいねんけど。
そんな奴おったら、そいつは生きてないだけや。

なんやトランプの話やったっけ。
あいつだって、なんも考えてへんのにシタリガオで笑ったりするんよ。
勿論そん時もケイゴは色っぽいねんけどな。
ワインなんかで酔うなんてありえへんのに、ちょっと眩暈がするとか云ってみたりするん。
こう―――指で目元を押さえて俯いてみたりして、俺がそんなんじゃ動かんの解っとっても無駄に色っぽい仕草すんねん。
あんなこと、誰に教わったんやろねえ?

そんでな、壜三つ空けたらベッド、ていうのが暗黙の了解ちゅうか、まあお約束なんやけど。

あんま俺、あいつ抱く気ぃせえへんかってん。
厭な訳やないで?
あんな別嬪さん相手になんの気ぃも起こさん奴はきっと目ぇ付いとらんねんな。可哀想に。

で、俺はだからあんま寝る気ぃしいひんかってんけど、ケイゴは働き者さんやからちゃんといつもみたいに俺の方寄って来たんよ。
そおっと俺の腕を掴むのなんて、いつやられてもぞくぞくすんねんで?
触られるんがどうのやなくて、そないなことするケイゴの脳ミソにや。
機会があったら、あんたも一夜、買ってみい。止まらへんから。

―――あ、もうそないな機会、あらへんのやな。

うん、そやし、俺は一応抱いてたんやけど、頭ん中ではずっと別のこと考えてたんやな。
俺、なんか考えてたんかな?
俺の頭はなんかを考えられる程高尚なんかな?

まぁそれはええ。
兎に角あんまそっちに集中出来ひんくて、それは適当に終わったんやけど、お姫さんが一寸機嫌悪ぅしてな。
俺はあいつを買うとる身やし、云うなれば主人なんやけどあくまで対等におるゆうのがルールやから。
安いルールでも大事なんよ。それだけで保ってたんよ。俺らは。

そやし俺はあいつの御機嫌取ろう思てな。
そんなん虐めてやれば解決するような問題なんやけど。

外に、連れ出したんよ。

なにしろ俺ん部屋はボロの極みのお手本みたいな感じで、埃だらけやし、家具も軋んどるし、無駄にモノ散らかっとるし
(モノ買う金なんて何処にあったんやろなあ?)ナニをするにも適さん場所やからな。
それに比べて外は丁度肌寒い感じの季節やったし。
寄り添って歩くコイビト装ってみるのもこれ一興やって、そんな陳腐な思考を俺はして、しり込みするケイゴを連れ出したんよ。

いつものことやし、別に感動なんてあらへんけど、外は霧が出とってな。

―――視えへんねん。ケイゴ。

よく濃霧のことを、「濃いミルクのような」って形容するやん?
ミルクなんて濃くても薄くても真っ白やんかって俺はいっつも思っとったんやけど、あん時は濃いミルクやなきゃ駄目やって思た。
そんくらい凄い霧で。

視えへんねん。

そこはぼんやり影があるくらいで、ちゃんとケイゴがおるって認識出来へんのや。
部屋出る時からずっと手ぇ引いて来たから、いま繋いどるんはケイゴの手ぇやって判っとるのに、全然信じられへんねん。

霧が邪魔で。

そやし俺は少しでも視界つくろうとして、俺とケイゴの間の空気を払ったんよ。
ケイゴの腕を引いてない方の手ぇでこう、びゅうって。
軽ぅく一振り。
それだけやったんに。

幽かに見えたケイゴの顔が赤いんよ。

頬の辺りに赤い筋が浮いとったん。
なんなんやろなーって思て。
ケイゴもそう思たらしくて、めっちゃ不思議そうな顔しとって。
それが間抜けで笑ったんやけどな。

ケイゴが俺の、あいつと繋いでない方の手ぇ見て、それから俺の笑った顔見て、蒼褪めたんよ。

あんな、俺な、ナイフ持っててん。

なんで俺ナイフなんて物騒なモン持ってたんやろな?
自分でも気付かんかってん。
無意識、ゆうても誰も信じてくれへんやろうけど、俺は部屋出る時にケイゴの腕引いて来た記憶しかあれへんよ。
このナイフ、クラッカーにジャム乗せるんに使ったやつやったかんな?
テーブルん上から、持って来てまったんかな?

で、俺はそんなモン持っとるって気ぃつかんかってん。
そのままびゅうって空を切った時に、ケイゴの綺麗な綺麗な顔に、傷つけてもうたんや。
それで笑っとるんやから、そらケイゴ、蒼褪めるわなぁ。

で、逃げようとするから、捕まえた。

強い力で掴んで絶対離さへんって思てぐっと握り締めた。
ケイゴは痛そうに顔歪めて。
ああ、可哀想に、痛いやろなぁって云ってやったんよ。
ケイゴはなんか云おうとしてたんやけど、赤い筋は口元まで伸びてたから痛くて口開けられへんみたいでなんや泣きそうになっとった。

それから赤い筋は一本だけじゃ綺麗やないな思て、もう一筋つけてみた。
ぶしゅうってケイゴの顔から何か出て来たんやけど、俺は気にせんかった。筋をつけ続けた。
ケイゴの顔がどんどん見えてくるんよ。
霧が晴れて。

真っ赤な顔が。

なんやもうナニがなんだか判らんくなってもうたから動かしとった手ぇを止めてみたら、もうケイゴはなんも云わんかったよ。
ただ黙って、俺の方に倒れ込んで来たから俺はそおっと抱き留めてやった。
これでケイゴは俺の腕から離れんて思ったら不安になったん。
ケイゴの身体を抱えとったから。
だから俺はケイゴの身体にも仰山赤い筋つけてやったんよ。

もうこれでケイゴは終わり。
もうこれでケイゴは居なくなった。

ケイゴは俺のもの。

それでやっと俺は安心して、ケイゴみたいなモノをその道端に転がせたんよ。

それで結局なんなのかって?

結局のところ、俺はケイゴを殺して、
ケイゴは居なくなって、俺は独りになっただけや。

それ以外、世界はなんも変わっとらん。

世界はなんも変わらんよ。

自宅――誰も近づかない裏の裏の裏の腐りかけたアパート――にて、蒼色の眸を持つ人形の髪を撫でるオシタリユウシの証言。

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