本編より15年後のバーナビー
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そっくり同じ科白を知っている。
「あなたはもう時代遅れなんですよ、おじさん」
それが自分に向けて投げられた言葉だとすぐには気づけなくて、反応するのが遅れた。声は若く鋭く、気配りを知らない。
バーナビーはゆっくりと振り返り、礼節を欠いた新入りの、仕事上の付き合いに礼節など必要ないとでも思い込んでいるかのような表情を観察する。
あの頃の自分もこんな顔をして、こんな態度をとっていたのだろうか。
わからない、自分の姿は自分では見られないから、と些末な弁解を誰にともなく内心で呟く。態度は悪いが育ちは悪くなさそうだと見てわかった。初対面の彼がどういう理由でアポロンメディアの社屋にいるのかは容易に想像がつく。数日前の強盗犯逮捕劇を反芻して、バーナビーは拳をいちど強く握り締め、解いた。
そんな所作に気づいているのかいないのか、バーナビーよりいくらか背の低い青年は、自分のペースで言葉を続ける。
「いや、正確には、あなたがたは、かな。俺があんな定年間近のおじさんの代打だなんて腑に落ちませんが、適当によろしくお願いしますよ」
適当という言葉をどちらの意味で使っているのか、などと、問い質したところでなんの解決にもならない。
バーナビーは青年の脱力して垂れ下がった両手を一瞥し、顔を見据えた。
「僕は君のことを知らない、だから今すぐに適切な評価はできない。ただ」
瞬きの裏で、四歳の頃のあの出来事と、それから三十年以上の月日で経験したあらゆることが駆け巡る。両親が、仕事上のパートナーが、人生のパートナーが、そしてそれ以外のたくさんの人が、記憶の中でバーナビーと相対していた。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、照れたり、それがすべて自分に起因したものなのだと、今ははっきりと知っている。
「覚えておくといい。自分のした行いは必ず自分に返ってくる。いいことも、悪いことも。それがいつになるかはわからない。だが返ってくる、絶対に」
年寄りの説教か、と辟易していることを隠そうともしない姿はいっそ清々しく感じる。バーナビーはそんな反応はどこ吹く風で、すっと右手を差し出した。
「よろしく、若造」
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