イワンとキース
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「あなたのことなんか」
若いヒーローは普段の彼に比べると幾分強い語気でそう吐いた。
「最初から嫌だったんです。派手で役に立つ能力があって、かっこよくて、みんなに優しくて、真面目で、でも天然で、キング・オブ・ヒーローで、そんな人の近くで同じヒーローをやっていて、惨めにならないはずがないじゃないですか」
どんな表情でこんな言葉を吐露しているのか、長い前髪が邪魔して窺えなかった。あるいは正面に跪けば覗き見ることができたのかも知れなかったが、そうすることは拒まれているように感じた。
「あなたに比べて僕は、ヒーローだなんてとても呼べないような存在でしかない。あなたの顔や声を思い出すだけで真っ黒い気分になるんです。あなたも、そんな自分も見たくなかった。……嫌だ」
「……そうか」
こんなことを云われて、なにを返せばいいのかわからない。声すら聞きたくないというのなら、なにも云わないのが正解かも知れない。それでも黙ってはおれずに、キースはせめてもの配慮のつもりで声量を小さく小さく下げ、綿が舞うように訊いた。
「では、わたしはここにいない方がいいかい?」
イワンの肩がびくりと跳ねた。目元は見えなかったが、唇が開いたり閉じたりして、逡巡していることはわかる。
「……そうは、云っていません」
やっと出てきたのは搾り出すようなその一言だけだった。イワンはまだ俯いている。
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