まぶしすぎる光の下で
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古泉の目とその手に持った銃がまっすぐに俺を貫いていた。
しなやかに伸ばされた腕はぴたりと照準を定めて動かない。逃げようとは思えなかった。そんなことは無意味だと、俺は知っていた。
高く降り注ぐ太陽の光に、銃口が反射してきらりと目を焼く。温い風が一瞬、よぎって、淡く輝く古泉のやわらかい髪やきっちりと締められたネクタイを乱す。
「古泉、」
「……すみません」
仕方なさそうに笑った古泉の肩越しに、ハルヒの顔が覗いた。
――わかってる。その身でハルヒを守る限り古泉は、相対する者には、例えそれが俺だったとしても容赦なんかしないんだろう。躊躇うことなく、添えたままの人差し指を動かして引き金をひくのだろう。
さっきまでは俺も、古泉が持っているのと同じものを握っていたのだが、力みすぎたのか汗をかいたのか(暑さで? 緊張で?)滑り落としてしまった。それは今、古泉の足元に転がっている。結局俺があの引き金をひくことはなかった。落としてしまってよかったのかもしれない。あれをハルヒや朝比奈さんや長門に向けて撃ちたいとは思えなかった。
古泉? ――そうだな、こいつは今まさに俺に向けて撃とうとしているのだし、俺からも一発くらい、撃ってやってもよかったのかもな。
古泉は最後にもう一度、照準を確かめるように構えたままの銃へと視線を一瞬滑らせ、また俺へ向いた。その顔は真剣ではあったが、それでもやはりどこか仕方なさそうで――
「すみません」
同じ言葉をまた呟いて、刹那、古泉が引き金を、ひいた。
「――っ冷たっ!」
思いきり額へ向けられていた銃口から勢いよくその中身が飛んできて、俺は盛大に水をかぶった。髪や瞼や頬を流れる水の感触に思わず目を瞑る。真夏の真昼間の真白い太陽の下、水道水とはいえ外気に比べたら十分冷たいそれを浴びて、気持ちいいんだか悪いんだかわからない。ぽたぽたと落ちる雫が肩を濡らした。
「よくやったわ古泉くん! 顔面直撃ね!」
「恐れ入ります」
古泉の背後でハルヒが歓声をあげた。ばしばしと肩を叩かれて、古泉は照れくさそうにしている。そうしてしばらく団長の賛辞を受けていた副団長だったが、ふと俺へ向いて眉尻を下げた。
「すみませんでした。大丈夫ですか?」
「ああ。ただの水だし、この程度で風邪をひくほど柔でもないしな」
襟元を引っ張ると、水を吸ったシャツと肌の間に風が通って思いのほか涼しい。どうせこいつの得物は子供用の小さな水鉄砲だ。すぐに乾くさ。
シャツをぱたぱたとはためかせていると、隣で古泉がふっと笑った気配がした。てのひらにすっぽりと収まる、半透明の青色をした水鉄砲を中空へ向ける。プラスチックの外装や中に残っている水に陽の光が反射して、ちり、と目を刺した。
「あなたには申し訳ないですが、とても楽しいですよ。こんなふうに、子供みたいにあなたたちと遊ぶことが、本当に」
あなた、と云うからには俺に聞かせるために云っているのだろうが、そのくせどこか遠くへ投げるような声で古泉が云った。
俺がなにか返すよりも早く、古泉がまた引き金をひく。
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