貴重な勝利
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最初は俺が持ち込んだオセロだった。それからチェス、将棋、トランプ、囲碁、連珠。大勢でやる時にはツイスターやすごろく。
高校に入ってからハルヒのせいでいろんなドタバタに巻き込まれたが、それと同じくらいに古泉のせいでいろんなゲームをやった。古泉はお前それはわざとやってんのかと掴みかかりたくなるくらいに弱く、そういう意味では張り合いがなかったが、強さが楽しさに直結するのはコンピュータゲームの特徴で、向かい合ってプレイするボードゲームでは心底飽きるようなことはない。表情も会話も、空気での駆け引きも、デジタルにはないものだ。
そういうわけで、俺はたまに古泉に負ける。ごくたまに、だ。朝比奈さんがコスプレしないくらいの確率だ。俺は痛くも痒くもないが、古泉的にはそれなりに意味を持つらしい。見ればわかる。
「ああ」
驚いたような声。目を瞬かせて盤上を見つめている。
「勝ってしまいました」
なんだその、悪いことをしたみたいな言い草は。云っておくがこれは確率論的に起こる偶然で決まった勝敗であって、つまり次は勝つ。
「もう一戦、お願いできますか?」
云いながら、俺が返事をする前にせっせと駒を拾い上げていく。骨ばった指が弾んで見えた。盤上はすぐに初期状態へ戻り、古泉の掌へまとめられた俺の分の駒をどうぞ、と渡される。
「そういう顔は」
「え?」
「――いや。もう一戦な」
嫌いじゃない。
(実は仲いい11のお題06 実は結構気に入ってたり……)
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