ジョーチェリワンドロ「寝たフリ・誘惑・心音」
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先に寝室へ行った薫は布団をかけていなかった。
背中を向けて横たわったまま、浴衣の裾は寝返りをうったように大きくはだけて、長い脚があらわになっている。一年中着物で過ごし足先は足袋に包まれている薫の脚は、本人の念入りな紫外線対策とあいまって男の脚とは思えないほど綺麗だ。こんなときでもないと見られないことが惜しいのが半分、こんなときにしか見られないから俺しか知らないという優越感が半分。
起こさないようそっと隣に身を寄せる。マットレスが大きく揺れたが薫は動かない。ゆっくりと息を吸って、吐く、薫のシャンプーの香りがする。
すこし手を伸ばすとすぐに薫の太ももに触れた。脂肪がメインの女の脚とは違って、すべらかな肌のすぐ下にはしなやかな筋肉が息づいている。長時間の正座を苦ともせず、計算し尽くされたスケートを実現させる体幹を支え、平然と俺に回し蹴りを食らわせる脚。それが今はなにもせずただシーツの上に投げ出されている。
触れたところから脚の外側をなぞって下へとつたってゆく。力は込めず、肌の表面だけを滑るように。膝までいくと骨のかたちがわかって確かめるようにくるりと撫でた。
起きているときにこんなことをしようものなら指先が届く前に扇子ではたき落されているところだがあまり気にはしていない。俺がこの脚を好きなのと同じくらい、こいつが脚を、全身を、俺に触られることが好きだと知っている。
肘をついて上半身をわずかに起こし顔を寄せると、鼻先に桜色の髪がかかる。その隙間からのぞく耳たぶに吐息でキスをした。
「……薫」
本当は心臓がどくどくと鳴っているのを必死になだめながらじっと待つ。どうせ全部ばれているだろうけど。だって、こいつは、最初から、
狸が目を開く。
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