コックコート虎次郎×デザワ短髪屋敷
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テーブル席満員御礼の店内にカラコロとドアベルが鳴った。開けられたドアの隙間から、よく晴れた空が覗く。賑わうランチタイムに似合いの、抜けるような青空だ。
三名グループのテーブルにパスタを三皿並べたところだった虎次郎は、身体に染みついた条件反射でぱっと笑顔を向け、声をかけた。
「いらっしゃいま──」
「一名で」
認めた姿に思わず声を失う。
現れた一人客は、この店一番の常連客──ただし営業時間内に来ることは少ない──に瓜二つであった。
すらりと背筋の伸びた長身、着慣れているとひと目でわかる着物姿、桜色の頭。鋭い吊り目にシルバーフレームの眼鏡。
ただ──髪がうんと短い。
いつも肩のあたりに背景のように背負っている桜色が、彼にはすっかりなかった。
虎次郎が薫に最後に会ったのは二日前の夜だ。土埃の舞う廃鉱山に長い髪をなびかせ、目にもとまらぬ速さでビーフのゴールラインを切って、息を切らしながらも涼しい顔をしていた。
その髪が、今はない。
前髪も短かった。目にわずかにかかるほどの長さはあるが、頬まで届きはしない。
「………………か、……」
一文字だけをようやくこぼした虎次郎へ彼はやや怪訝な目を向け、ぐるりと店内を見回した。後頭部の丸いシルエットは、最近ショートカットにしてイメージチェンジした女優に似ている。結って後ろ髪を隠しているのではなく、真実髪が短いのだ。
「入れないなら失礼しますが……」
「いえ! 大丈夫です、ようこそお越しくださいました。カウンター席へご案内いたします」
彼はミートソーススパゲティを注文した。レシピ自体は基本に忠実なものだが、県産のあぐー豚を使った、虎次郎こだわりの自慢の一品である。
半分ほど食べ進められたころ、水を注ぎ足しつつ声をかけた。
「……お味はいかがですか?」
「とても美味しいです」
そう言ってかすかに微笑むと、きつい目つきがほんの少し和らいだ。
やはり別人だ。薫がこんなことを素直に言うはずがない。
ドアプレートを裏返すために表へ出ると、宵闇の中から見慣れた姿の幼馴染が現れた。柔らかく吹く夜の風に、顔の横にかかる桜色の長い髪が揺れている。
まったくもって、いつも通りの姿であった。
「あーっ! あーーー薫、あー……びびった……ハァ……まじ……」
「何だ? 早く入れろ」
「お前、髪切るときは事前に言えよ……」
「はぁ?」
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