昔の男

元彼のいる薫

「それで、そのとき付き合っていた相手が——」
「えっ!?」
「何だ、うるさいな。急に大声を出すな」
「付き合っ……えっ」
「……何だ」
「大学のときだよな? 彼女いたのか?」
「彼女はいない」
「……それって」
「女じゃない」
「……男が好きなのか?」
「さあ。性別で判断したことはないな。女たらしのお前にはわからんだろうが」
「皮肉か?」
「相性なんて性別だけで判断つかないだろう。気の合う異性もいれば、合わない同性もいる」
 つまり大学時代の薫の相手は気の合う同性だったということだ。そんな抽象的な表現だけでは、虎次郎には相手の姿を思い描くことなどまったくできなかった。
 必死に想像をめぐらせる虎次郎をよそに薫はワインを舐めて、何でもなさそうに言った。
「まあでも、お前ほど気兼ねない相手には出会ったことがないな」

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