胎動

桜屋敷書庵の中がこうなっていたらいいなという夢

 純和風の屋敷にこんな部屋があるなんて、知らないひとには想像がつかないだろう。
 商談をしたり門下生の指導をしたりと、なにかとひとの出入りのある屋敷だが、一階の最奥にあるこの部屋へは他人を入れない。扉も襖ではなく、セキュリティの機能する頑丈なものに変えてある。指紋認証で解錠すれば、途端に小さく唸るような音が耳に届いた。絶えず響くこの音を気にするひとも世の中にはいるのだろうが、薫には心地の好い囁き声だった。
 足袋の足を踏み入れる。屋敷内の他の部屋や廊下に比べて少し高く作られた床の下には無数のケーブルが這っている。一年を通して温度と湿度が高いこの島でも息絶えてしまうことのないよう、厳密に管理された空調のおかげで、着流しの裾から潜り込む空気には肌寒さすら覚える。
 ずらり並んだサーバラック、黒いメッシュの扉に指を這わせると、金属の冷たさが指先に伝わり、ほどなくして馴染んだ。
 その奥ではライトグリーンの小さなランプが無数にチカチカと明滅している。夜空に広がる星々のようなそれを見つめて、薫は目を細めた。
「カーラ」

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