コン←ユ
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好きだと告げたら彼はどういう表情をするだろう。嫌悪の表情か、聞こえなかったふりをするのか。それとも――笑顔が弾けるのか。
確かめようと見上げた顔は、そのどれでもなかった。一切の温度のない瞳が、静かにユーリを見つめている。
「だめですよ」
まるで幼子の悪戯を叱る大人のような声だった。お前は恋愛対象ではないと言外に告げられているようで、羞恥に足元から頭まで一気に血が上る。
「俺を好きになってもあなたは幸せになれない」
酷い言葉だ、と思った。嫌いだと言われた方がまだましだ。そんなあやふやな理由で断られるとは思っていなくて、ひたすらに惨めな気持ちが湧き上がる。
そうして、気づいた時には手が動いていた。右の手のひらの痛みに、ユーリはいま自分がなにをしたのかを悟る。悟ったところで後悔も懺悔もない。ユーリの身体は心に従って動いている。
コンラートは庇いもせずに打たれた左頬を晒したまま、短く嘆息した。
「その、堪え性のないところは早く直した方がいい」
「おれが本当に考えなしに手を出したと思ってんのか」
反射だったから、考えなしに見えるかもしれない。けれどユーリはこの地で相手の左頬を打つことの意味を嫌というほど思い知らされていたし、だからこれは、地球と眞魔国の両方での意味を持っている。
やりきれない思いがユーリの全身を包む。一世一代の告白をされたほうの男は、名付け親の空気を崩さない。さてどうやって宥めようかと思案しているのが伝わってくる。宥められたくてこんなことを言ったわけではないのに。
その時ユーリはコンラートが度を越した頑固者であることを思い出した。あの時も、あの時も、あの時も、あの時も、彼はユーリの理解者であると示しながら自らの信じる道を選ぶ。そこにユーリの希望は汲まれない。
応えてもらうことはヴォルフラムと婚約破棄をするよりも遥かに難しそうだった。唇が震える。泣きたい気分でも、涙は出なかった。
「あんたって女の子は来る者拒まずなのになんでおれのことは拒むの」
「あなただからですよ。お願いだからわかって」
「わかんないよ。わかりたくもない」
声が擦れたのは興奮しているせいだ。経験不足の子供にとっては自分でどうにかできる範囲を超えている状況で、どうしようもない気持ちがユーリを興奮させた。その一方で、肚の底がすっと冷えてゆくのも感じる。
コンラートは憐れむように目を細めた。いつだってユーリを撫で抱きしめて慰める大きな手は、地を向いたまま動かない。
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