甘やかされ筆頭幹部
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これではどちらが年上なのかわからないな、とベルナルドは内心で吐息する。
いつだって、自分が彼を甘やかしてやりたい、大人の余裕で包み込めたらと夢想するのに、現実はまるで正反対だ。ベルナルドがジャンカルロに与えるよりも遥かに多くのものを、ジャンカルロはいとも容易に、朝の挨拶を交わすように返してくるのだった。
これはベルナルドが特段不器用なのではなく、ジャンカルロの方が異質なのだとベルナルドは考えている。組織のカポという立場に条件があるのなら、これほどに相応しいひとは他にいない。アレッサンドロが改革者ならばジャンカルロは先導者だ。彼はドラクロワの描いた女神のように、背後につき従う自分たちをしっかりと視ている。オメルタを持ち出すまでもない。
ジャンカルロは紛れもなく、自分たちの新しいカポなのだ。
「キスしたい」
これはとてもカポへ向けた言葉ではないなと自覚しつつ、零れてしまったミルクを嘆いても遅い。案の定ソファでコーヒーを飲んでいたジャンカルロは首を曲げてこちらを凝視している。目が合ってしまったので苦笑を取り繕って見せると、ジャンカルロはコーヒーカップをソーサへ置いて立ち上がった。
「なあに、お疲れなの、ダーリン?」
「ああ、情熱的な恋人がなかなか寝かせてくれなくてね」
「云ってろ」
突き放す言葉を云いながらジャンカルロはベルナルドへ手を伸ばし、後ろ髪を撫でつけるように触れながら頬へ掠めるだけのキスをした。ジャンカルロが離れるより早くベルナルドはその顎を捉え、くちびるへ同じものを返す。舌は使わなかった。
全然、これっぽっちも返せていない。
まったく甘やかされてばかりだと思いながら、そんなことは今更だ、出会った時から知っていると考え直し、ベルナルドは眼鏡の奥の眸を眇めた。
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