BEST後ベルナルド独白
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たいせつなものはいつだってひとつだけだった。
たったひとつのものに忠誠を誓い、そのことだけを考えて、そのためだけに生きる。その生き方は自分の肌に合っている、とベルナルドは自覚していた。なによりも楽だった。「それ」以外の雑念をすべて斬り捨てることと忠誠とはまったくの別物だと理解してはいたが、そう錯覚することはできた。地に足がついている、そんなふうに思いこむことができた。
だから、たったひとつ。組織のためにあらんとして、ジャンカルロを弟分に、と申し出たのだ。本心は別のことを望んではち切れそうになっていたが、それはベルナルドの忠誠が斬り捨てた。
いつのことだっただろうか。一人でそんなばかなことをしていたのは。
ベルナルドにとって、CR:5は家であり、家族であった。ボス・アレッサンドロであり、仲間であり、部下であり、そしてジャンカルロであった。
なにを迷うこともない。ベルナルドにとってそれらは均一の重みをもって存在し、彼の道となり光となり行く手を示すのだ。それがある限り、恐れるものなどなにもない。暗闇はもはや、彼の古くからの友人でしかない。ジャンカルロと共に闇の中心へ沈む時、ベルナルドは決まってどこか懐かしいような面映ゆいような、くすぐったい感覚に襲われた。彼はそれが嫌いではなかった。
狭く暗い、閉じた世界から解放された時の沸き上がるようなあの情動を、一生忘れられないだろうと思う。あの脱獄劇は単に格子と塀からの脱出ではなかった。ベルナルドを縛っていた本意ではないあらゆる制御がすべて一斉に解き放たれたようなカタルシスだった。あんなにも眩しい朝日は、きっともう見られない。
あまりのことにベルナルドが眩暈を感じている間も、その隣でジャンカルロはいつものように笑っていた。
「おーげさだなあ。いつも俺がやってることに、ゲストが四人増えただけだぜ?」
そう一蹴してみせるけれど。彼がそれまでにやってのけてみせていたものとは異なる、大の男五人での脱獄のため、持ちうる人脈と情報網を駆使していたことを知っている。その方法はベルナルドの精神衛生上あまり歓迎できないものだったが、ジャンカルロが自分たちのために用意した光への道程なのだと思えば耐えることができた。
現金なものだと思う。黒く塗りつぶされたような脱獄経路の中で、必死になってジャンカルロの気配を、存在を、呼吸を探していた。それについていこうと、ただそれだけを考えていた。
それは確かに、正しい行為だったのだ。
そして、世界は開かれる。
たいせつなものはいつだってひとつだけだ。そして、その「ひとつ」の中にすべてがある。今ここに、腕の中にある。
ベルナルドは目の前の、深い寝息と共に上下する金髪にくちびるで触れた。
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