ベルナルドとルキーノ。キスしてますが受け攻めはお好きな方で
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佳い夜だった。
組織として厄介な案件もなく、それぞれのシノギもいたって順調。自棄を起こすためではないアルコールの摂取は、気分のよさを増幅させた。街は眠りに就いている時間帯、ベルナルドの仕事部屋にも兵隊の姿はなく、他人の目を気にせず好きな酒を好きなように飲むのは気が楽で、グラスの空くペースも速かった。
「ジャンがまた、ご老体をうまく転がせてきてくれたって聞いたよ」
「またか。あいつは本当に……全く、ラッキードッグ様々だな」
「ルキーノが選んだスーツも随分と様になっているようだし?」
「ああ。最初はどうなることかと思ったがな。元は十分なんだから、背筋伸ばして堂々としてりゃいいんだ」
ルキーノがまるで自分のことのように自慢げに話すのを、ベルナルドは不思議な気分で聞いた。ベルナルドにとってジャンカルロとルキーノは、同じCR:5の一員でこそあるものの、別のカテゴリに属する存在だった。それが今となっては片やカポ、片やカポの衣装係である。結果として巧くいっているのでベルナルドから口を挟むことはないが、予想外の展開なのは否めない。
隣に座っているので窺えるのは横顔だけだが、ルキーノがベルナルドの前でこんなふうに笑うのは初めてのような気がする。おそらくルキーノは、そんなことには気づいていないし気にも留めていないのだろうが。
ベルナルドが、すぐ傍にあるルキーノの肩に手をかけた。なんだ、と横へ向くより早く、すいと流れるようにベルナルドの上体が寄せられる。傾いた顔が近づいて、アルコールに濡れた唇が、そのまま。
一瞬だけ触れて、離れた。
離れはしたが、ベルナルドは肩に手を乗せたまま、至近距離でじっとルキーノを見つめている。眸の裏側を探るような視線に、ルキーノはひどく居心地の悪い気分になった。
「……ベルナルド」
「うん?」
「なんだ、今のは」
「キス」
「そうじゃなくて」
酔っ払いの迷走かと思ってベルナルドの表情を注視しても、多少アルコールは回っているだろうが、そこまで理性を失っているようには見えなかった。
ベルナルドが、肩に置いていた手を滑らせて首筋に触れた。指先の冷たさにルキーノが肩を揺らす。はは、とベルナルドが機嫌よく笑った。
「もう一回」
「な、」
発した言葉は近すぎるほどの位置にあった唇に簡単に遮られた。
また、と思った次の瞬間には熱い舌が滑り込んできて目を見開く。酔っ払いだからといって許される行動ではない。そもそもそんな趣味はルキーノはもちろん、ベルナルドにもないはずだ。ベルナルドがジャンカルロに向けている複雑極まりない感情については今は関係ないだろう。
頭のおかしくなった筆頭幹部を引き剥がしてしまいたかったが、なぜかそうできなかった。腕を動かせない。顔を背けられない。主導権は最初からベルナルドにあって、ルキーノはただ、それに引きずられるように舌を動かすだけだった。
ファンクーロ、と酸素の足りない頭の中だけで罵倒する。こんなに巧いなんて聞いてない!
ようやく解放されても、ろくな言葉も浮かばない。せめてもの反撃のつもりで恨みがましい視線をやったら、ベルナルドは楽しそうに喉を鳴らした。
「ルキーノ」
「なんだ」
ルキーノは上体をさっと後ろへ引いて短く答えた。檻の中で鬣を逆立てるライオンだ、とベルナルドは思った。
「お前、可愛いな」
今度こそ絶句したルキーノを横目に、ベルナルドはくつくつと声をあげて笑った。
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