Buon Compleanno, Bernard! 薄暗い話でごめんね
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「誕生日おめでとう、ベルナルド」
そう云ってジャンカルロが背後に隠していた――隠しきれはしないサイズの――花束を片手で差し出すと、ベルナルドは両手を伸ばしてそれを受け取った。顔を近づけずとも香ってくる芳香につんと強く嗅覚を刺激され、目を細める。
「ありがとう。嬉しいよ」
「こんなものでよかったのけ? もっと盛大にお祝いしたっていいんだぜ」
「いいんだよ。もう誕生日が嬉しい歳でもないしね、十分だ」
真っ白な百合の花にそっと触れる。水分を多く含んだ厚い花弁はベルナルドの指先にすうと馴染んだ。
「無欲だなあ。欲しいものがあればカポ権限ですぐ用意するのに」
大盤振る舞いの方法を覚えたカポ・デルモンテがどんと胸を叩く。しかし返ってきたのは、想定とはまったく違う返答だった。
「……無欲なのはお前の方だろう、ジャン」
「え?」
トーンの落ちた声に目を瞬かせる。声の主を見やると彼はひどく凪いだ表情でジャンカルロを見ていた。
「お前の方こそ、欲しいものはないのか?」
「俺? 俺じゃなくて、今日はベルナルドの誕生日だろ」
「だからだよ。お前に俺がなにかしてやれることはないのか?」
がさりと音をたてながら、ベルナルドは花束をサイドボードに置いた。すぐ傍のベッドランプに照らされて、百合がオレンジ色に染まる。
「俺は幸せだ。お前が好きで、お前も俺を好きだと云ってくれて、こうして祝ってもらえて。だけどお前は? ジャン、お前とはもう十年以上の付き合いになるが、お前が心底嬉しそうにしているところは見たことがない」
「なに云ってんだ、そんなのしょっちゅう」
「違う」
ベルナルドはかぶりを振ってジャンカルロの言葉を強く遮った。そんなことをする人間ではない、普段ならば。
「お前は、ほんとうはなにが欲しいんだ? それを俺が与えることができたら、それこそが俺にとっては最高のプレゼントなのに」
「俺は……」
音に出した言葉はすぐに詰まって、そのことにジャンカルロは驚いた。後に続くべき言葉など決まっているのに、なぜそこで途切れてしまった?
「……俺は、あんたに居て欲しい。CR:5にいて、俺の傍にいて。今までみたいに、これからもずっと」
「死ぬまで?」
「……ああ。そうだ。俺たちは、死ぬまでここから離れられない」
ジャンカルロの声は小さく、重く、発した内容は二人にとっての真実だった。ベルナルドにとってどんな意味があるのかを、きっとジャンカルロはわかっていない。
そうじゃない、そうじゃないんだよ、ジャン。
「……残酷だ」
恋人が迷いのない表情をしているのを見て、ベルナルドは高い天井を仰いだ。
彼にとっては、それが彼の欲しいものなのだ。例えベルナルドからはそれが本心からの願いとは思えなくとも。ジャンカルロが、自身がそれよりももっと渇望しているものがあることに気づかない限り、それがベルナルドに伝えられることはない。
それでも。
「ジャンが、それを望むなら」
服従に等しい了承の言葉に、ジャンカルロはやわらかく笑んだ。
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