5巻チェンジャケポエム
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全身を包んでいた水がゆるくしかし大きくうねるのを感じて遙はそろりと瞼を開けた。
もうどのくらいここにいるのだろう。誰もいない水の中は静かで、何者にも脅かされず、安全だ。ひっそりと息をとめるようにしてただ時間が過ぎてゆくのを感じていれば、世界にたったひとりきりになれたような気分がした。
誰かとても大切な仲間がそばにいたような気がする、けれどもうここにはいない。それでもいい、それでいい。
しかし沈黙して寄り添っていたはずの水が胎動し、遙の意識の眠りを覚ます。
「ハル」
頭上から聞こえた声はどこまでもやわらかくなつかしい。
「おはよ」
視線を上げる。真琴が微笑んでいた。いつかプールから、浴槽から、遙を引き上げた時のように手を差し延べてまっすぐに遙を見ている。
「……真琴」
膝を抱えていた腕が震えたのを、真琴が見逃すはずがない。
自分のそばにずっといたのが誰だったのか、誰がいてほしかったのかを思い知らされる。
「おいで。みんな待ってる」
腕を引かれ、水の流れにのって、遙の身体は抵抗なくゆるりと引き上げられる。
真琴の身体越し、遠い水面から白い光が射し込んできらきらと光り、それはひとすじの道標のように思えた。
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