THE WORLD

モブ視点

それは、いつかの夢のリフレイン。

撃って撃って撃って、そして残った敵対者はその男ひとりになった。
こちらも全員負傷。ただし、死者は居ない。勝つためには身を生かさなければならないことを身を以て知っている人間たちが、腕を脚を腹部を抑えながら、それでも地に立っている。
ゆらりと、スパイクが私の前に立った。ジェリコをぴたりと構え、てのひらにかける力を僅かに調節してその感触を確かめていることまでわかる。その銃口がまっすぐ狙う先、男は左手に構えたアサルトをそのままに、右手を素早く黒いコートの内側に伸ばしてサバイバルナイフを取り出した。―――ちっ、と、スパイクが短く舌打ちをする。彼は刃物を好まない。理由は知らない。ただ、それが浅い気持ちではないことは知っている。
相手の男はそれを知っているのだろうか。知っていてやっているのならば、随分と悪趣味だ。スパイクは刃物を好まないが、苦手とはしていない。
そんなことを思考する一瞬に、相手がすっと右肘を引いた。スパイクが反応する。刃が空を斬る音がする。戦闘。

ばん、ばん、ばん、と、銃声だけが幾度も世界に響き渡る。ナイフはあの一本だけだったようだ、もうあの身が凍るような音は聞こえない。男は私たちには欠片も興味がないらしく、その眸はただスパイクだけを映していた。ぎらぎらと獣のような眸の中心が、スパイクだけを捕らえては放すまいと動いている。反してスパイクの眸は男を捉えながら、周囲を見失うことのないように、静かに激しく運動を繰り返す。撃っては動き、少しずつ間合いを詰めてゆく。
―――はやく、あの胸を、一撃で。私は出ない声で叫んだ。私の知っているスパイクはそれが出来る。どうして。どうしてあの男は捕まらない。私には関係がない筈の戦闘がもどかしくてたまらない。彼ら以外のすべてが止まって見える。私の身体も動かない。動かせない。

スパイクの身体が私の前を通り過ぎ、男の銃口がそれを狙っているのが判った。そして私の身体は動かない。
踝に鈍い痛み。それから膝にも。見れば踝からはどろどろと醜く血が流れ、その衝撃で膝がくず折れたようだった。スパイクを狙ったものが、誤って私を捕らえてしまったのだろう。それでも私の身体は動かない。スパイクが一瞬私を振り返り、少し離れたところに居たジェットになにかを鋭く叫んだ。ジェットは私の腕を掴んで立たせ、どうにかもう流れ弾など当たらないところまで引きずった。片足は支える機能を失ったらしく、私はそのまま地面におちてしまった。踝を無意識のうちに押さえ、そして私の身体は動かない。
うるさいほどに聴覚を支配していた銃声の応酬も、もう聞こえない。聴覚器官の失陥ではない、意識の断絶だ。ただ映像だけが、ふたりの戦闘を私に伝えている。映像は目まぐるしく変化し、私の意識はもはや完全には追いつけない。互いの銃は確かに何度も相手を捕らえ、しかし致命傷にいたるようなものはなかった。僅かに滲む血の跡がいくつも見える。

ばあん、と無音だった世界にひとつ大きな銃声が響き渡った。
終わった。私は感じた。

その音を最後に、みえる映像が目まぐるしく動くことも、戻った聴覚に銃声が聞こえることもない。相手は静かに地面に倒れ、動かなかった。その左手は未だアサルトを握り締めたまま離さないようで私は不安に思ったが、さきほどの一撃ですべて終わったのは本当で、その証に、スパイクの右腕が下ろされた。
終わった。同じようにこの戦闘を見守るだけだった者たちが、一斉に動く。あるものはスパイクへ駆け寄り、あるものは残った惨状をすぐ傍らで見下ろし、あるものは男に向けて目を閉じる。この場にはもう私たちを攻撃するものはないということだけが、ただひとつ確かなことだった。

見上げればずっと世界を包んでいた曇天から、ぽたりと恵みが降りそそいでいる。
私は目を閉じ、そのつめたい雨を受けた。

…という、夢をみました。
夢での語り手(=私)はオリキャラでしたが、フェイでもいいかも知れません。ジュリアではないな。

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