探偵ありがとう
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「ドラマの企画?」
机に向かうコウジの隣に立って、散らばった紙を見下ろしながらヒロが言った。ふたりの間で、洗いたてのきんいろの髪からシャンプーが香る。
「そう。音楽だけじゃなくて、全体のプロデュースを任せてもらったんだ」
コウジはヒロを見上げもせずにそう返した。大まかな題材や音楽のイメージやプロットのアイデアが書かれた紙がコウジの机に散乱している。筆跡が達筆すぎて、ヒロにはところどころ解読できない部分があった。
「へえ、すごいじゃないか」
「さすがに初めてだから色々手探りだよ」
コウジはしばらくくるくると回していたペンを置き、ヒロへ振り返る。少しオーバーワークな気もするが楽しんでいるように見えた。コウジが直前までなにかを書きつけていた紙には人の名前が並んでいる。主演のコウジ、相棒役のユウ、それから各話ゲストのキャスティング案。
ヒロの視線に気づいたコウジが口の端を上げた。
「ヒロはオンエアを楽しみにしてて」
「なんだ、俺は出してくれないのか」
「ヒロが出たらどっちが主演だかわからなくなっちゃう」
「そんなことないぞ。この間は清掃員の役をやったし」
「ああ、すごく目立つ清掃員だったね」
春先に放映されたドラマでヒロが清掃員兼サラリーマンという不思議な役をやっているのを、コウジはインターネットの配信で見た。そもそもヒロが主演でないというだけで珍しいのに、別の人で見慣れた姿で出てきたものだから笑ってしまったのだ。ヒロのファンはそんなことはないだろうけれど。
「じゃあ、今回はないけど、もし続きを作れるならヒロは……アイドルの役かな」
「探偵に依頼するアイドル?」
「ストーカー被害に遭ってるとか。それでもう一人依頼者がいて、そのひとはヒロのファンで、自宅を突き止めてほしいって依頼されるとか」
「うわぁ」
ヒロが無遠慮に表情を歪めた。自宅とまでは言わずとも、寮まで来てしまうような行き過ぎたファンはたまにいる。
「……もうちょっと違う役のほうがいいね」
「そうしてくれ」
コウジが自分に役をあてがうとしたらどんなものになるだろうと考えるのは、新曲を受け取る前の気持ちに少し似ていた。今回のプロットにはなくて、ストーカー被害に遭うアイドルでもない誰か。
コウジがまた机に視線を落としたので、ヒロは自分のベッドに向かった。まだ眠くはないからゲームでもしていよう。ちょうどイベントが始まったところだし。
ベッドに座って背を壁に預けると、コウジの横顔がよく見えた。
「オンエア楽しみにしてるよ」
「ありがとう」
コウジは下を向いたまま返事を寄越した。なにか思いついたのか、ペンのキャップを外している。
ヒロはひとつ頷くと、携帯端末にイヤホンを挿した。
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