巨女♂になるコウジ 尻切れ
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運がよかったのは、屋内ではなく公園にいたことだった。
それぞれに忙しい学業と仕事の合間を縫って、三人で会えそうだと判明したのが昨日の朝のこと。昼間に会えるならピクニックがしたいとヒロが言い、カヅキが明日は天気がよさそうだと調べ、コウジは最近創作サンドイッチに凝っていると話し、満場一致で可決した。
広いステージのあるいつもの公園に十四時待ち合わせ。平日の昼、なんの催しもないステージの周囲は他にひとの影もなく、三人は人目を気にすることなく弁当を広げた。
そこまではなにも問題なかった。友人同士の平和なランチタイム、のはずだった。
コウジが作ってきた十種類のサンドイッチを綺麗に平らげ、デザートのカットフルーツの入った容器を開けようとしたところで、ボン、とアニメのSEのような爆発音がした。
「うわっ!」
間近で響いた大きな音に、ヒロは思わず目を瞑る。
音は一度鳴っただけで止まった。恐る恐る目を開けると、隣にいるひとが誰なのかわからないほどの煙幕が立ち込めている。無闇に動くべきではないが危険があるなら一刻も早く逃げなければならない、ヒロはすぐに行動できるようにしゃがみ込んだ姿勢から片膝を立てた。
「コウジ、カヅキ? 大丈夫か?」
腕を目の前で振って煙を散らす。視界が少しずつ明るくなって、隣に座っているカヅキの姿が見えた。
「よかった、カヅキ。……カヅキ?」
この距離にいて聞こえないはずがないのにカヅキはヒロの声に反応しない。首を限界まで上に向け、口を開けた間抜けな顔で空を見上げている。
「どうしたんだ、カヅキ」
そういえばなんとなく周囲が薄暗い気がする。さっきまであんなに気持ちのいいピクニック日和だったのに、今は高層ビルの影にいるような暗さだ。
カヅキの視線の先を追ってヒロも空のほうを見上げる。広い公園の中に、風がびゅうと吹きつけた。
「……コウジ、」
遥か高くにコウジの顔があった。
「ヒロ……カヅキ……」
コウジはヒロとカヅキを見下ろして、ボウリングでガーターばかり取っていた時のように眉尻を下げている。彼のふわふわと鯉のぼりのように揺れる髪の隙間から太陽が見えた。
「どうしよう……」
呟く声も表情も確かにコウジのものだった。
ただその姿が、ヒロやカヅキの周りに影を落とすほど巨大になっているだけで。
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