コウジとヒロとカヅキ。PRIDE the HEROありがとう
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できることはあるだろうか、と考える。
僕が自由にできる時間は残り少ない。もともとできることなんて歌を作ることくらいしかないのに、渡米後はそれすらも制限される。自分で決めたことだから後悔はないけれど、歌を好きに作れないのはひどく不自由だ。
数日後にせまったローズパーティを境に、僕らはそれぞれの道に進む。心まで離れるつもりはなくても、今までのようにそばにはいられない。
ヒロとカヅキはプリズムキングカップに出場する。ヒロはprideで戦うと、カヅキはFREEDOMで踊ると言ってくれた。プリズムキングカップの舞台で僕の歌が二曲も流れる。大好きなふたりが使ってくれる。夢みたいだ。
その夢のような光景を、瞼の裏に思い描いた。大きな会場、広いステージの上にたったひとりで立つ姿を。空間いっぱいに響き渡る僕の曲と彼らの声。ライトを浴びて披露する、観る者みんなを惹きつけるプリズムジャンプ。
そこに流れる音楽は、二年前に作ったあの曲たちではなく、今のヒロとカヅキのためのものであるべきだ。
「これを」
ローズパーティのリハーサルを終え、本番を待つだけになった楽屋で、僕は二枚のディスクをテーブルに置いた。向かいに座るヒロとカヅキが同時にそれを見て、ぱちぱちと瞬きをする。このふたりはたまに可笑しくなってしまうくらい似ている瞬間があって、今もそうだった。
「これは……」
ヒロが片方のケースを手に取る。不思議そうな声を出すのも無理はない。その白いディスクにはただ一言、prideとしか書いていないから。
「同じ歌だよ。ただアレンジを変えてみたんだ。今のヒロとカヅキに相応しいように……」
ヒロがゆっくりと顔を上げて僕を見た。正解を探すように揺らめく亜麻色の瞳。
「プリズムキングカップの舞台に相応しいように」
アレンジを作りながら、ずっとそれだけを考えていた。
キングを目指す彼らに相応しいように。あの時──デュオでのデビューを考えていた時や、ストリートで披露する時の曲ではなく、プリズムキングカップの会場に流れる曲を。
カヅキがテーブルの上に置いた手に力を込めて拳を作った。
「もちろん、聴いて気に入らなかったら今までのアレンジを使ってくれて構わないよ」
「使うさ」
僕の言葉に割って入るようにしてカヅキが言った。ディスクの上のFREEDOMという文字を見て、それから僕を見る。
「コウジが俺たちのために作ってくれたんだろ? だったらこれを使うに決まってる。俺は作曲のことは正直よくわかんねえけど、コウジがそう言うならこれを使うさ。なあ?」
「ああ、……ああ」
水を向けられたヒロが、ディスクと僕とカヅキを交互に見ながら何度も頷いた。ケースを置いて、上からprideという文字を指先でなぞる。
「これを使うよ。ありがとう、コウジ」
礼を言われるのは変だ、と思った。これは僕が勝手にやったことで、押しつけにも似ている。それなのにふたりは聴きもせずに使うと言う。
そうやって僕の歌を認めてくれることが、どんなに僕の力になっているか、きっと気づいていないのだろう。ひとり旅立つことに不安がないとは言えなくても、迷わずにいられるのはヒロとカヅキが僕の歌を身をもって証明してくれるからだ。僕の歌を聴いて、誇りを、自由を示してくれるから。
「どういたしまして」
プリズムキングカップを戦う孤独は、重圧は、僕にはわからない。それでも、身勝手にも祈らずにはいられない。
どうか金色の王冠が、仲間の頭上に輝きますように。
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