彼の話

ユーリとヨザック

「ヨザックが羨ましいよ」
「はい? 泣く子も笑う魔王陛下に羨ましがられることなんて、オレのどこにもないと思いますよ。あなたは国中の民の羨望の的ですが」
「コンラッドのことを知ってる」
「……ああ、そういう話ですか」
「おれにはどうしたって知りようのないことだ」
「そりゃあ事実としてはね。ひどい腐れ縁ですが、小さい頃からなんだかんだで知ってはいますよ。坊っちゃんの知りたがっていることをお話しして差し上げることはできますけど、あなたが欲しいのはそういうんじゃないでしょう」
「……おれだってこの目で見たかったよ」
「陛下の魔力でもどうにもならないことをオレに嘆かないでください。オレからしたら、坊っちゃんのほうがよっぽど隊長のことを知ってると思いますよ」
「そうかな……おれなんてまだ知り合って一年も経ったのかどうかってところだよ。こっちの時間の流れはよくわからないけど」
「オレは百年近く知ってますけど、隊長があんな顔するなんてあなたが来て初めて知りましたよ」
「あんな顔ってなに?」
「やーん、それを言うと殺されちゃうからグリ江の口からは言えない! 許して坊っちゃん!」
「そういうふうに思えるのも昔のコンラッドを知ってるからだろ。おれは今のコンラッドしか知らないから、どこが違うとか変わったとか気づきようがない」
「いいと思いますよ、それで。……そんな不服そうな顔なさらないでください」
「なにがいいんだよ」
「昔の隊長を知ってたら、坊っちゃんは今みたいな目で隊長を見なかったでしょう?」
「……わかんないよ、そんなの」
「いーえ、絶対にそうなります。小さい頃のあいつは見目こそかわいかったですがね、見た目だけですよ。見た目と外面だけ。必要な時に必要なだけしおらしくできるからたちが悪いんです。中身はとんだ粗雑な乱暴者ですよ」
「グリ江ちゃん、目がマジだよ……なにがあったの」
「それこそ毒女とどっちがましかってくらいです」
「そ、そんなに……?」
「まあそれはそれ、隊長も長いこときつい目に遭って、百年かけてようやく坊っちゃんと出会えたわけですけど、でもオレはそれが他でもない今でよかったと思いますよ」
「なんで?」
「だって、あいつはあなたに嫌われたら生きていけないから」

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