「ラブレター」のあと
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たっぷり持ってきたカードに、コンラッドはゆっくりと文字を埋めていった。少し考えたり、いつもより丁寧にペンを滑らせたりするのを、おれはベッドの端に腰かけて見ている。ちらっと覗き見たコンラッドの筆跡はいつもよりだいぶきれいだ。おれたちのお姫様に渡すことを考えて書いてくれていることに、むずむずとした喜びが灯る。
「寒くありませんか」
おれよりも火の近くにいるコンラッドが、顔だけこちらへ向けて訊いた。オレンジ色の光で逆光になった彼の髪はいつもより柔らかく見える。
「平気。部屋もだいぶあったまったし」
答えると、コンラッドはそうですかとほっとしたような顔をして、またカードへ視線を落とした。横顔でも相変わらず腹が立つくらい整っている。
あまり近づいたら、なにか勘違いしてしまいそうだから。
雪のしんしんと降る気配も、火の爆ぜるぱちぱちという音も、コンラッドがカードをめくったりペンを動かしたりする音も、全部がどこか遠くに感じる。おれは息を詰めてただその光景を見ている。
最後のカードに短い文章を書きつけ終えて、コンラッドは、ふ、とインクに息を吹いた。
「できましたよ」
振り返ったコンラッドと思い切り目が合って、ごまかすように立ち上がる。なにも言われないだろうが、なんとなくばつが悪い。
「サンキュ。きっとグレタも喜ぶよ」
「そう願っています」
コンラッドの大きな手がカードを整え、束にしておれに差し出した。受け取る時に一瞬だけ触れる。少し乾いた、傷のある手。
結局脱がないままだった上着のポケットに束のカードをしまうと、もう用事はなくなってしまった。コンラッドを見上げれば、彼は困ったように小さく微笑んでいる。口は閉じたまま、なにも言わない。おれの言葉を待っている。
「じゃあ、あんまり護衛を待たせても悪いから」
「ええ。お気をつけて」
見送ってくれようとするのを、ここでいいからと部屋の扉で断った。酒場の喧騒はもう聞こえないし、一歩外へ出れば今の護衛が守ってくれる。
「コンラッド」
「はい」
扉を中途半端に開けたコンラッドの背後では、火がゆらゆらと燃え続けている。暗い中でも、彼の瞳の星が瞬いた気がした。
「……ありがとな」
枕の陰にカードを一枚、こっそり置いてきたことに、きっと彼は気づいているだろう。
気づいていてもなにも言われないことに、突き返されないことに、言いようのない気持ちがそれでも口から出そうになって、閉じた薄い扉に背中をつけて、ぎゅっと強く目を瞑った。
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