その花のいろ

ジョーチェリワンドロ「桜」

 桜の色と聞いて思い浮かべる色が本土のひととは異なるらしいと気づいたのはいつだったろうか。
 沖縄で見る桜は濃いピンク色で、散るときも吹雪かない。だから淡いピンクの花びらが風にあおられて雨のように雪のように降る光景はテレビで見るイメージ映像のようなものだった。遠い国の絵葉書のように、存在すると知っていても手触りを想像できるような実感はない。

 卒業旅行へ行こうと言い出したのは虎次郎のほうだった。行きたい場所があるわけではなくとにかく春休みのうちになにかしたいのだ、行き先は薫が決めていいと言うから、飛行機の本数が多いというだけで東京を選んだ。
 東京へは修学旅行でも行ったが、あれは秋とは名ばかりの蒸し暑さがはびこる時期だった。今は三月。念のためにと持ってきた上着がもしもなかったら、空港を出た瞬間に服を買いに行っていただろう。
 ビルとひとが多いと思い込んでいた土地も、歩いてみれば存外緑が植えられていることに気づく。歩くだけで精一杯の原宿から抜け出すように空の広いほうへと足を進めれば、登り切った坂道の先に桜の木が立ち並んでいた。
 薫は興味があるのかないのか、すたすたと歩きながら、ふうん、と気の抜けた声をあげた。その声をかき消すように春のつよい風が吹く。薫の長い髪がばさばさと煽られて風の通った道筋を描いた。
 それを見て虎次郎は立ち止まる。数秒後、ついてきているはずの人間がいないことに気づいて薫も立ち止まり、振り返った。白い日差しを受けた口元のピアスがきらりと光る。
「なんだよ」
「いや、」
 虎次郎はおおきな手のひらを広げると、風に吹かれて落ちてきた花びらを受け止めた。手の中をじっと見つめ、同じ熱量の視線を薫へ向ける。
「本当にお前の色してるんだなと思って」

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