古キョン家族妄想・オリキャラ注意
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右手に財布と車の鍵、左手にまだ小さなこどもの手を握って玄関へ向かっていたら待ってくださいと声をかけられた。
「忘れ物です」
渡されたのは携帯電話。サンキュ、と受け取って上着のポケットに突っ込む。
「いぶきはどうする? 行くか?」
古泉の隣で背筋をぴんと伸ばして立っている娘は昔の妹を思い出させたが、行儀のよさは天と地ほどの差がある。もちろん行儀のよいほうがいぶきである。
「いかない。パパに宿題みてもらう。おみやげかってきてね」
「わかった。留守番よろしくな」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
同じ顔をした大きい男と女子に見送られて家を出る。この光景にももう慣れた。扉を閉める瞬間、俺の後について出てきた和樹が振り返って何かアイコンタクトを送ったようだが俺には見えなかった。
「一緒にいきたかった?」
ふたりが出て行った扉を施錠していると、後ろから鈴の鳴るような声で尋ねられた。振り向くと大きな瞳が何かを探るようにこちらを見上げている。
「いえ、食料の買い出しだけなら荷物もそこまで多くないですし、人が多い方が大変でしょう。任せてしまって大丈夫ですよ」
じっと見つめるその顔と同じ高さになるようにしゃがんで、頭を撫でた。やわらかい髪は自分の髪に似ている。こども、なのだ。
「いぶきはいい子ですね」
「かずきがおとなげないだけだよ」
とても兄に対する妹の評価とは思えない発言に思わず吹き出す。同時に出発間際、和樹が見せたにやりとした笑みを思い出した。ふたりっきりで買い物だ、いいだろ、邪魔すんな、とかそのあたりのアイコンタクトだ。正直羨ましい。小さなこどもが二人もいる現状では、彼と二人きりになることはほぼないと云っていい。でも、それが厭なわけでは決してない。
「二人が戻ってくるまでに、宿題を済ませてしまいましょうか」
うん、といぶきは、僕の顔をして彼のように笑った。
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