ベルナルドとラグトリフ。特典手紙SSネタ
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命令は簡潔だった。
「できるだけ苦しめて殺せ」
ラグトリフは差し出された一葉の写真を手に取り、承知いたしました、と返した。
「具体的になにかご希望は?」
「ない。三日三晩絶望と仲良くさせてやってくれるなら、その方法は任せる。豚でも亀でも好きなものの餌にすればいい」
「それは助かります」
話しながらもベルナルドは、部下の差し出した書類をチェックし、サインを入れ、手元の帳簿に控え、次の指示をし、という作業を繰り返す。
ラグトリフは色のついたレンズの奥から写真の中の男を見つめた。なんの特徴もない、平凡な男だ。着ているスーツの仕立てがよさそうなのは、さすが財務局の担当といったところだろうか。
滑らかなその生地が血に染まるところを想像する。
気の迷いさえ起こさなければ平凡なまま人生を終われただろうに、彼は道を違ってしまった。コーサ・ノストラの幹部を売ってただで済まされるはずがない。それに手を下すのはラグトリフだが、写真の男には同情も憐憫もなかった。道を違わず生きてゆける人間の方が珍しい。
革張りの椅子に腰掛けているベルナルドの背後、広い窓の向こうの青空を見やる。白い雲の隙間を鴎が飛んでいた。
「今日は久しぶりに機嫌がよろしいようですね」
「そうか? まあ、あの汚い鼠がお前の手に渡るのだから、いくらか気分も晴れるさ。くれぐれも頼んだぞ」
「お任せを、ドン・オルトラーニ。あなたのカポにもどうぞよろしくお伝えください」
ラグトリフは写真を上着のポケットにくしゃりと突っ込み、上司の部屋を辞去した。
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