シェリー

ナチュラル淫乱ノマを目指して挫折

「これ……ワイン、ですか?」
 慣れた手つきで微かに色づく液体を注がれたワイングラスを手にし、克哉は呟いた。
 一口舐めてから、感じた違和感を確かめるように顔の高さで静かに揺らして、御堂を見る。
 御堂は優秀な生徒に満足するように微笑を返した。
「シェリーという酒精強化ワインだ。ブランデーが入っている。それは辛口のフィノだから飲みやすいだろう?」
「そうか、ブランデーが入ってるんですね」
 もう一度香りを確かめ、目を閉じて口に含む。克哉はまだワインの扱いに慣れてはいないが、丁寧に味わうので、御堂は持っているいろいろなワインを克哉に飲ませたがった。
「うん。美味しいです。料理にも使えそうですね」
「ああ、肉にも魚介にも使われている。興味があるならこれは好きにしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
 御堂のグラスにシェリーを注ぎ、置いたボトルを興味深そうに見つめながら、克哉は少しずつグラスの中身を減らしていく。
 克哉に注がれたシェリーを口元へ運び、御堂は云った。
「シェリーには特別な意味があるんだ」
「意味?」
「ああ」
 グラスを傾けると、じわりと繊細な風味が口内に広がった。ひどく美味しく感じるのは、当たり年のボトルを開けたからか、それとも。
 続く言葉を待っていた克哉に視線を合わせ、御堂は口の端を上向けた。
「シェリーを飲みたいと云うことは、一緒に寝てもいいという合図とされている」
 常よりも低く囁かれた声に克哉は絶句した。それから顔を赤らめ眉尻を下げて、何と返せばいいのかを探るように視線を宙に彷徨わせる。
 その様子をくつくつと笑いながら見ていた御堂を、克哉は意を決したように正面から見据えた。
「……御堂さん」
「ん?」
 グラスの脚を指先できゅっと握る。御堂は余裕のある素振りで、まだ動揺の引いていない克哉を見ていた。こんな少量のワインで酔うことなど御堂も克哉もありえず、どちらもいたって正気のままだ。
 ただ、とても気分がいい。なんて贅沢な休日の午後。

「オレ、シェリーが飲みたいです」

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