私は丘の上から花瓶を投げる(未完)

パラレル/カメラマン跡部とモデル忍足

 白いバック紙に足の裏をぴたりと載せて、背筋は天井の存在を意識して。
 軽く顎を引いて、一度閉じた目を真直ぐ正面へやりながら呼吸を止めれば強い光がこちらを睨む。
 それが、世界だった。

「アトベ?」

 自分の周りを忙しなく動いて手際よくメイクを落としていく滝の言葉に、忍足は訊き返した。そう、と滝は鏡の中で視線を合わせて笑う。

「忍足、撮ってもらったことない?」
「そんな名前、聞いたこともないわ」
「へえ。結構有名な奴なんだけどね。まあ、跡部は仕事を選ぶからなあ」

 その跡部と、滝は明日同じ現場で仕事をするのだという話だった。滝のメイクの腕がいいことは忍足も理解していたが、『仕事を選ぶ』ようなカメラマンと組めるという事実があるなら、認識を改めなければいけないかも知れない。

「そんなに巧いん?」

 訝しげに、忍足がまた訊いた。滝は苦笑する。忍足はモデルとしての素材と能力を充分に持ち併せていたが、その精神にはやや問題がある。それなりに付き合いのある滝は、それを知ったうえで、云った。

「巧いもなにも。世界が変わるよ」

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