朗読者

お互い相手の声が好き

「跡部って、教科書読むん?」
「は?」
「だから、現代文とか古典とか」
「そりゃあ、読まないと勉強にならねえだろうが」
「あー、そういうんやなくて。授業中に。当てられて」
「―――ああ」

 例えば出席番号で当てられて、声に出して文章を読み上げるのか、と。そういうことだろう。

「当てられたら読むだろ。当たり前だ」
「あー、失敗したなあ」
 忍足は大袈裟に呻いてみせた。
「別に跡部と同じクラスになるとか、ほんまどうでもええねんけど、あー、それは聴きたかった」
 それはおどけた科白でありながら、限りなく本心なのだろうと跡部は感じた。

「あ、俺が読んだるよ。何がええ?」
「テメエの朗読とか、聴きたくねえし。キモい」
「うわ酷。巧いで? 自分で云うのも何やけど」

 ふと空いた間に、悪戯心が疼いた。

「読んでやろうか」
「―――その後でシャワーを浴びてセックス?」
「しねえよ」

 目が合って、笑いながら、頭の中では二人とも、相手に朗読させる本を厳選していた。

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