Something feel like Heaven

うっかりいたしてしまった話

 忌まわしいのか、厭わしいのか、愛おしいのか。

「ホンマにな―――」

 ふう、とどこか投げ遣りな白い溜め息を吐いて、忍足は呟いた。
 頭の中に、昔聴いた曲が思い出される。その詞が。
 ―――被っとる。忍足は苦笑した。

 しかも自分は寝煙草ときた。
 その上更にこの視神経が正常ならば、一人寝ではないらしい。すぐ隣に、無防備に――当たり前だ!――眠っている奴が居る。
 軽く開いたブラインドから月明かりが射して、周囲を冷たく浮かび上がらせていた。
 ―――ああまた被った。

 夢、なんて言葉は、忘れた、つもりで、居た。

 いま直面しているこれは天国なのだろうか?
 どちらかと云うと地獄であるような気が忍足には、した。その想定はあまりにリアルで思わず身震いする。

『テメエ、ヤるからには責任取れよ』

 学校帰りに家に来ていた跡部を、流れと云うか、弾みと云うか、とにかく忍足は押し倒してしまった。
 自分でしておきながらどないしようと動けずにいた忍足に、跡部は意外にも落ち着いた眼でそう、云ったのだ。
 不敵に笑って「任しとき」なんて、云わないでおけばよかった―――テニスの相方じゃないんだから。
 こんなに余裕がなくなるなんて考えもしなかった。

「責任取って欲しいんは、こっちやっちゅーねん」

 隣の男の柔らかい前髪を引っ張った。男は僅かに顔をしかめ、その細い身体を丸く縮めた。
 その反応に忍足はまた溜め息を吐く。
 何やねんその動きは小動物みたいやって解っとんのか自分小学校で飼ってたウサギにそっくりなんどうにかしい―――
 そして自分のその思考に向けて、三度目の溜め息を吐いた。

 トキメキってどこの言葉だ、と忍足は思った。
 もう何が何だか判らない。自分の認識している世界は確かなのか、そもそも今の意識が果たして自分だと定めて善いものなのかも不安になっている。
 こんな夜じゃ。

「―――好き」

 試しに呟いてみて、疑問と吐き気を覚えた。

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