心配の仕方

ショタちんと風邪ひいた土方

 ごほ、と咳き込むくぐもった音で目が覚めた。
 重たい瞼を持ち上げながらもぞもぞと身体を動かす。意識と感覚が繋がると、布団から出た指先が冷えていることに気づいた。ここ数日はいつもそうだった。昼の日差しは暖かくても、朝や晩の空気は冷たく、じわじわと身体の芯を冷やしてくる。
 寝返りをうつと、大きな背中がこちらへ向いているのが見えた。彼は普段寝相がよく、いつ見ても天井を向いていることがほとんどなので、この状況は珍しい。
 ごほ、とまた咳の音が聞こえ、それに合わせて目の前の背中が揺れる。丸められた背中は沖田を拒絶するようにも感じられた。
「土方さん」
 上体を起こして覗き込むと、顔が僅かにこちらへ向けられた。眉間に深い皺が刻まれているが、沖田の悪戯を叱る時の表情とは違っていた。
「総司」
 低くざらついた声で名前を呼ばれて心臓が跳ねる。
「近藤さんの部屋に行っていろ」
 反論を許さない口調で言われて、けれどそれで沖田が引き下がるかは別問題だということは土方もわかっているはずだった。
「なんで」
 近寄ろうとすると土方の手が布団から伸びて止められた。むっとしてその手を責めるように強く握ると、触れた箇所がひどく熱い。
 土方はゆるりと腕を動かして沖田の手を払い、そのまま宙に弧を描いてから沖田の頭にぽんと手を乗せた。髪越しにも伝わる体温は、一度だけ撫でてすぐに離れる。
「移したら困る」
 沖田のことを考えてくれているのだとわかってしまうと、病人相手に反論する言葉は紡げなかった。きゅっと閉じた唇を、けれどまた開いて、
「はやくよくなってね」
「そうだな」
 それだけ言って部屋を出ると、襖の向こうから何度も咳き込む声が聞こえてきて、風邪などひいていない沖田も胸が苦しくなった。きっと自分がそばにいる間はできるだけ咳をしないよう堪えていたのだろうことは容易に想像がつく。
 冷えた廊下を歩きながら、いつか沖田が風邪をひいた時に土方が持ってきてくれた、卵粥の作り方を教えてもらおうと思った。

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